松岡美術館 Matsuoka Museum of Art

三彩馬は唐時代の王侯貴族の墳墓に納められた副葬品の一種です。唐朝の貴族たちにとって、駿馬を所有することはステータスであり、さらに愛馬の姿を象った陶馬を副葬させ、死後の生活のお供としました。
本作のように首を下げたポーズの馬は類品が少なく、珍しいものです。
装飾はシンプルで品良くまとまり、鬣(たてがみ)や尻尾などの体毛、馬具は線刻で丁寧に表現されています。面(おも)繋(がい)、胸(むな)繋(がい)、尻(しり)繋(がい)に下げている杏(ぎょう)葉(よう)のデザインは、西方伝来の植物文様であるパルメット文がモティーフです。

白磁の釉下に筆描きによる青い文様が浮かぶ青花磁器の技法が完成した14世紀、元時代の作品です。
梅(めい)瓶(ぴん)と呼ばれる宋時代に好まれた器形に、西アジアの金属器を思わせる面取りが施され、曲線を組み合わせた窓や地を埋め尽くす蔓唐草文などイスラム風の意匠と、双鳳図や草虫図、牡丹や菊、蓮花の花卉唐草文など中国の吉祥文様とが、よどみのない筆致で描き込まれています。この時代、こうした青花の大器は西方へ盛んに輸出されており、本作とほぼ同意匠の八角瓶がイスタンブールのトプカプ宮殿に伝わっています。

フラスコ型の丸々とした胴を駆け巡る1頭の龍。滑らかな純白の磁肌に青が映えるこの印象的な作品は朝貢貿易によりイスラム圏へと渡っていった明時代初期の青花磁器で、独特の形も彼の地の嗜好を反映したものといいます。元時代に始まる青花は、この時期に一段と洗練されました。
良質な白磁にイスラム圏から輸入された鮮やかな発色のコバルト青料を用いて、伸び伸びとした絵付の筆勢が龍の躍動感を余すところなく表現しています。
数ある所蔵品の中で清次郎が最も愛した作品です。

藍と白の対比が印象的なこの技法は、藍地白花とも呼ばれます。このような作例は元時代より見られますが、類品はそれほど多く残っていません。宣徳年間につくられた瑠璃地の陶磁器は、混じりけのない鮮やかな色から宝石藍と讃えられました。
魚や蓮は、いずれも中国において豊穣や子孫繁栄の象徴とされているモティーフで、「魚」は「余yu」と、「蓮」は「連lian」と同音であることから、二つの組み合わせは毎年余裕があり豊かである｢連年有余｣を寓意しています。

五彩は高温焼成した白磁や染付に、赤や緑など複数の上絵具で絵付けをし、錦(きん)窯(がま)という小型の窯で焼き上げた器です。明時代の万暦年間に景徳鎮官窯で作られた五彩器は、「万暦赤絵」という呼び名で、日本の茶人たちに尊ばれました。
籠に牡丹や菊の花をふんだんに盛った花籠図は、茶人たちにとりわけ好まれた図像の一つです。当館玄関ドアのデザインはこの花籠図をモティーフにしています。

本来はあり得ない、花と果実を同時につけた桃樹がきわめて写実的に表され、その鮮やかさはまるで絵画のようです。とりわけ桃は、硬そうな緑色から熟れて赤くなるグラデーションが見事に再現されていますが、ここにはヨーロッパの無線七宝の技術を応用して雍正年間に完成された粉彩技法が用いられています。5つの桃しか見えないのに「八桃文」としているのは、裏面に3つの桃をつけた樹が表へと続いているからです。このように裏面から表面へと連続するように描かれた文様を「過(か)枝(し)」といい、主に雍正、乾隆の両代に見られます。

乾隆帝の時代は、明の永楽帝や宣徳帝時代の磁器を写した復古調の青花や釉裏紅が多くつくられました。本作もその一つですが、明初に好まれた扁壺という器形はより高く大型化し、伝統的な青花に鮮やかなピンクの上絵付けが彩りを添えています。
この彩色は、金を用いて発色させた胭脂紅と呼ばれる粉彩の一種で、康熙帝時代に開発されたものです。先に青花のみ絵付けをして透明釉をかけて焼成し、後から胭脂紅で上絵付けしたものを再度焼き付けて完成します。
隙のない精緻な仕上がりから、洗練を極めた景徳鎮官窯の製陶技術がうかがえます。

古九谷様式は、1640年代に肥前有田で誕生した日本初の色絵磁器で「初期色絵」とも称されます。祥瑞手、五彩手、百花手などの種類がありますが、本作は緑や黄などの強烈な色彩で器面を塗り尽くすことが特徴的な青手です。
轆轤で大鉢を挽き、口縁が花弁のような八稜形の土型に被せて叩く「型打ち成形」によって作られていますが、このような大器には稀有な形です。青い芭蕉と緑の柳の山水図に、黄色の亀甲文を背景とした意匠は、金地の屛風や障壁画に由来するとも考えられています。
こうした大きな皿や鉢のデザインはほぼ一点ものです。

オランダ東インド会社を介してヨーロッパへ輸出された日本の色絵磁器は1670年代には赤を主体に「濁(にごし)手(で)」などと呼ばれる乳白色の磁肌を活かした柿右衛門様式を確立します。それらは彼の地の王侯貴族に大層好まれ、大量の作品が海を渡っていきました。イギリスの女王メアリー2世も熱心な陶磁器コレクターで、女王の居城だったロンドン郊外のハンプトン・コート宮殿に本作と同じタイプの六角壺が伝存しています。

鍋島焼とは、佐賀鍋島藩直轄の秘窯で焼かれた磁器で、将軍への献上品、諸大名の贈答品、藩主の自家用品として生産された特別なやきものです。17世紀後半、優秀な陶工を集めて大川内山に窯を移し、最盛期を迎えました。
三弁の紫陽花は鍋島焼によく見られる意匠ですが、中国の豆彩に倣って輪郭線は染付で引かれ、花弁に施された赤い線描の下にも、ごく淡い染付の輪郭線が認められます。立ち上がりの深い独特な器形は「木(もく)盃(はい)型(がた)」と呼ばれ、高台には櫛目文が、側面には七宝繋文や牡丹唐草文などが染付で描かれています。

高さ50センチ余りの大壺に威風堂々とした五爪龍が描かれています。中国陶磁の影響のもと、朝鮮では15世紀中頃から青花磁器の生産が始まりました。青の原料（コバルト）は朝鮮では採れず、中国からの貴重な輸入品であり、青花磁器は王族のための御器とされていました。このような青花大壺は王宮の祭祀宴礼の際に用いられたのでしょう。
個々のモティーフは中国の文様を踏襲しているものの、龍の頭部に丸い斑紋を描く独特の顔貌表現や貫入の多い温かみのある磁肌など、器全体が中国陶磁とはまた別趣の味わい深さを醸しています。

ベトナム青花は14世紀に中国の影響下に創始されたと考えられ、本作は器形も文様構成も元時代青花によく倣った作例のひとつです。とはいえ素地は淡灰色で白土による化粧掛けの上に青料で絵付けし透明釉を掛けた半磁胎のため、景徳鎮の透明感のある硬質な白磁とは異なる柔らかで温かみのある風合いを醸し出しています。
主文様の正面を向いたユーモラスな表情の魚や、口縁の素地を摘まんでゆるやかな花弁形とする手法もベトナム青花ならではのおおらかな作風を示しています。