松岡美術館 Matsuoka Museum of Art

セクメトは雌ライオンの頭部をもつ女神で、メンフィス（現カルナック）の創造神プタハの妻。太陽神ラーの娘で、年老いたラーに背く人間に容赦なく罰を与え、疫病をもたらす恐ろしい神です。その強大な力により勝利の守護神として王たちに崇拝され、王の力と結合されました。また、一方では悪疫を防ぎ、治癒の神ともなりました。
この像は、本来は椅子に腰かけた姿でしたが、頭上の太陽円盤や左手に握られたアンク（生命の象徴）など今では多くが失われています。王国の最盛期、大規模な建造物を造営したアメンヘテプ3世（在位1390-1352年頃）が、自らの病気快癒を願って奉納したセクメト椅像600体のうちの一つであったとみられます。

遺族や神官が供養を行うため礼拝施設に安置された奉納像の一つで、神官プタハ・メイと妻ハトシェプストの娘と推定されています。鬢(びん)の先だけ編んだウェーブの髪型に、薄い亜麻の長衣カラシリスを纏い、左手に女性の守護神ハトホル女神の頭部を象った楽器シストラムを持っています。脚部には、来世に必要な食糧を保証するとともに、彼女の名を永遠に遺すための銘文が刻されています。
米国ボルチモアにあるウォルターズ美術館に対となる作品が所蔵されており、王族以外でこれほど大きい座像は珍しく、2体も現存している貴重な作例です。

中部エジプトの町アクミムで信仰された、ミンという豊穣神に仕えた神官パシェリエンイルアァの棺です。多重構造の棺のうち、ミイラが納められた内棺にあたります。古代エジプト人は生前正しい行いをすれば、冥界の神の審判を経て、来世で永遠に生きられると信じていました。そのため、神の審判まで魂が宿る肉体を維持するべく、亡骸をミイラにして、棺に納めました。棺の身や蓋には、被葬者を護る冥界の神々や復活の場面などが描かれ、永遠の生への願いが込められています。

古代中国では、祖先の宗廟に供える祭祀用の器として、青銅器が作られました。匜は儀式の際に水を注ぐために用いられた器で、本器の内底部には銘文（金文）があります。西周中期以降の青銅器に刻まれた銘文は、周王から臣下（作器者）に授けられた命令（官職の任命など）の記録とその記念として器を作った旨を記す銘文（冊命金文）が多いなか、本器の銘文では、史という役職についていた「頌」が自らこの匜を作らせたことが記され、子孫に永く宝として用いるよう命じる内容となっています。本器の他にも「史頌」や「頌」の銘文を持つ銅器が多数伝世し、同一人物と推定されています。

古代中国では、青銅製の酒器や食器などとともに、楽器も作られました。本器のような棒状の吊手が付いた鐘を甬(よう)鐘(しょう)と呼びます。西周後期には、大きさ・音階の異なる鐘を複数個組み合わせた編鐘というスタイルが確立しました。
本器は春秋晩期の長江下流域で製作されたもので、清時代乾隆24（1759）年に江西で出土した編鐘11点のうちの1つです。銘文より、春秋呉王の子「者減」が製作者であることがわかっています。